教授挨拶

藤田敏郎

東大先端研の臨床エピジェネティクス講座のホームページへようこそ!当講座を主宰する藤田敏郎です。私達はこれまで高血圧や、慢性腎臓病、心血管病及び内分泌疾患の患者様の診療を通して、これら疾患の根本的治療を目指し、その原因メカニズムを解析し、新たな治療法の確立を追求して参りました。

飽食の時代は塩分やエネルギー過多の食事摂取により、肥満や高血圧、糖尿病、高脂血症及びそれらの複合疾患であるメタボリックシンドロームをもたらし、その結果として我が国における心血管病、慢性腎臓病(CKD)の罹患率は増加の一途をたどっています。我々は豊かさと引き換えに健康を損なう結果となっています。科学の力で何とかしたいと日々考えてきました。それには予防と正しい治療法の確立が重要であること申すまでもありません。そのためにはどうしてその病気が生じるのかその原因を明らかにすることが重要です。

私達は高血圧の発症メカニズムの研究を行ってきました。塩分の摂り過ぎが高血圧の重要な発症要因であることはよく知られています。しかし、塩分の摂り過ぎによる血圧上昇機序は実のところ良く分かっていません。また、塩分を摂りすぎると高血圧になりやすい(食塩感受性の高い)人となりにくい(食塩感受性の低い)人がいます。最近我々は、食塩感受性高血圧の分子メカニズムを明らかにしました。食塩感受性の高い(食塩感受性)高血圧ネズミでは食塩を摂りすぎることで腎臓の交感神経が活発になり、塩分排泄に関わる遺伝子(WNK4遺伝子)の働きが抑えられてしまう結果、体にナトリウムが貯留して血圧が上昇することを世界に先駆けて明らかにしました。またこの他にも、食塩感受性高血圧の発症には、腎臓の細胞の形の維持などに重要な働きをしているタンパク質のRac1が、塩分貯留性ホルモンのアルドステロンの受容体(MR)を活性化させることが関わっていること、更にRac1を阻害することによって食塩感受性高血圧が治療できることも発表しています。ごく最近、人においてRac1活性化に関わる遺伝子異常が発表され、Rac1-MR系が人の腎臓病においても重要な役割をしていることが分かりました。

このように高食塩摂取やエネルギー過多などの環境要因が、腎臓での塩分排泄に関わる遺伝子の形質を修飾することで、その機能に影響を与えることによって、高血圧が発症すると考えられます。このように肥満やストレスなどの環境因子がゲノム(DNA)に書かれた遺伝情報を変えることなく、遺伝子の発現を制御する現象を“エピジェネティクス”と呼んでいます。エピジェネティクスは発生、再生、老化にも関係し、癌の研究領域ではすでに注目されていましたが、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の領域では研究が始まったばかりです。このエピジェネティクスの解明が生活習慣病の新たな治療法のターゲットになると考え、この講座を立ち上げました。エピジェネティクスの解明が新たな疾患克服へのアプローチと信じて、研究員一同日々研究に励んでいます。皆様方のご理解とご協力を頂けますと幸いです。

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